EWEウェブニュースNo.311 (2019-05)2019-02-20 寄稿

 矢幡明樹(1964電気工学科卒)会員から下記の寄稿をいただきました。  

強い思い込みによる失敗(「太陽が東に沈んでいる!!」)
                                         1966年電気(修) 矢幡明樹

もう50年近くも昔のことになる。私は会社の山岳部に所属していた。 11月の連休を利用して、冬山登山の下見のため、4名で南アルプスの赤石岳に入っていた。 天気は悪く、視界も100mぐらいで、小雪がちらつく中、赤石岳から緊張を要する急な雪面を下り、 ようやく広い砂礫地に降り立った。 積雪は殆ど無く、大きなケルンが幾つもあり、私たちは風をよけてケルンの影で休んだ。 日暮れは近いが、あと1時間も右斜め下へトラバース気味に下れば、今夜の幕営予定地荒川小屋に着くことができる。


菓子などを食べて、いざ出発。私たちは2年前の夏に、ここを逆方向に歩いているのだが、いくら見つけても 右斜め下へ行く路はなく、まっすぐ登っていく路はある。 これは荒川岳に直接登る縦走路だ、と思った。 また、右下への斜面も記憶よりも急に思えた。磁石を出して方角を確かめると、考えとは逆の方角を示している。 「あれ!磁石が狂っている!!」 本当は、ここで別の磁石を出して確かめればよかったのだが、 「もう遅いから、今日はここに泊まろう」となってテントを張った。 しばらくしてテントを出ると、霧がかなり晴れ、遠くの山も見えた。そのとき、雲の間から一条の光が射した。 まさに日没の瞬間。「あっ! 太陽が東に沈んでいる」 それは私たちが思っていたのと方角が逆であった。 私たちは風をよけてケルンの風下側に休み、出発のときにケルンを回りこんで、逆の方向、 つまり私たちが下りてきた方向に踏み出してしまったのだった。 私たちが踏み出した方向を正しいと思い込み、その思いが強かったために磁石まで疑ってしまったのだ。

思い込みが異国間、異文化間、異宗教間にあると世界平和の大きな阻害要因になることは最近の世界情勢を 見ればよく分かる。強い思い込みは偏見に通じる。思い込みが一国のリーダーや多くの国民まで支配してしまうと 不幸である。教育までがその思い込みを強化することになってしまう。私の場合は笑い話しで済んでしまう思い込み であったが、色々な場面での相互理解には、思い込みを排除する冷静な判断が何より大切であろう。
以上